一定限度の生命保険金や一定限度の死亡退職金、墓所や仏壇等限られた非課税財産を除き、
現金・預金、土地・建物、株式や貸付債権等、殆どの財産が相続税の対象となります。
第1段階 課税対象となる財産の集計
(税務調査では財産隠しや名義預金、名義株式等がチェックされます)
① 非課税財産を除く相続開始時の被相続人(亡くなった人)が有する一切の財産
② 相続又は遺贈により財産を取得した者が、相続開始前3年以内に、被相続人から贈与により取得した財産
③ 相続時精算課税を適用して被相続人が贈与した財産
課税財産=(名義ではなく真実の所有権が誰にあるかを基準に)非課税財産以外の相続財産(①)+
生前に既に贈与された一定の財産(②+③)
第2段階 課税対象となる財産の金銭的評価(金額の算出)
(税務調査では土地の評価の誤りや通達の潜脱等がチェックされます)
① 相続税が課せられる各財産の価格を、土地、建物、株式等各財産の種類毎に、その金額を評価します。
各財産は、原則として時価により評価しますが、実務上は、(それが潜脱でない限り)「財産評価基本通達」により簡便に評価することも許容されています。
② ここで小規模宅地の特例等の減額特例を適用します。
③ 住宅ローン等相続される債務等を控除します。
④ 相続税の基礎控除額を算出して控除します。
基礎控除額=3000万円+(600万円×相続人の数)
⑤ 上記①から②③④等を減額ないし控除し、相続税の課税対象となる財産の金額(課税遺産総額)を算出します。
課税遺産総額=①―②-③―④
①≦②+③+④なら相続税はかかりません。
第3段階 相続税の総額の計算
① 課税遺産総額を、「法定相続人が、民法上の法定相続分どおりに相続した」と仮定して(実際は遺言等によりそうでなくとも)、各法定相続人の相続額を計算します。
② その仮定に従い、各法定相続人の相続額を基準に、相続税の累進課税の規程にあてはめ、各法定相続人の相続税額を求めます。
③ 上記仮定に従い算出した各法定相続人の相続税額を合計します。
第4段階 各相続人又は受遺者の相続税の計算
① 相続税の総額を、「実際に相続又は遺贈によって課税対象財産を取得した人」に対し、「各々が取得した財産の割合に応じて按分」し、割り付けます。
② 財産を取得した者が1親等の血族及び配偶者以外の者である場合には、20%を加算します。
③ 相続又は遺贈により財産を取得した者が相続開始前3年以内に被相続人から贈与により財産を取得した際に課せられた贈与税は控除されます。
④ 配偶者控除を控除します(配偶者の法定相続分である相続財産の2分の1、1億6千万円のうち、多い金額までは、配偶者が相続した財産には相続税は課税されません)。
⑤ 数次相続控除、未成年者控除、障害者控除等、その他の控除をします。
マンション建設が相続税の大幅な節税になる仕組みとは?
現金預金は、その額面金額で評価されます。
相続税の計算において、例えば、被相続人の4億5千万円の預金は、当然、4億5千万円の価値であると評価されます。
マンション敷地(土地)の評価減について
① 預金を土地に変えるだけで評価減(相続税路線価)
相続税の計算において、土地の金額(評価)は、通常は、相続税路線価を出発点として、角地や不整形地等土地の形状の有利不利を斟酌して決定されます。
一般に、相続税路線価が時価より低く決められていることから、現金預金で保有するより、
土地で保有する方が、相続税が安くなります。
② 賃貸マンション敷地なら更に評価減(貸家建付地)
マンションの敷地の評価は、相続税路線価から出発して算出した金額(自用地評価額)から、貸家建付地としての評価減を減額して算定します。
マンション敷地価格=自用地評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
③ 小規模宅地の要件を満たせば更に(貸付事業用宅地)
貸家建付地としての評価減に加え、マンション敷地が小規模宅地の特例の要件をすべて満たす場合には、土地の評価額が、限度面積(200㎡まで)まで50%減額されます。
なお、自宅賃貸併用、家業の店舗と賃貸併用なら更に減額の余地があります。
ただ、小規模宅地の特例は適用要件が非常に複雑ですので、素人判断は禁物です。
その筋の第一人者に任せましょう
マンション自体(建物)の大きな評価減について
① 建築した建物の評価は金銭の50から60%
建物の評価は、通達によれば、固定資産税評価額で評価されます。建物の固定資産税評価額は、家屋の構造にもよりますが、一般的に、概ね、建築費の金額の50%から60%程度で評価されています。
② マンション用建物なら更に評価減
マンション等課税時期において貸家の用に供されている家屋は、その家屋の固定資産税評価額に借家権割合と賃貸割合を乗じた価額を、その家屋の固定資産税評価額から控除して評価します。
③ 2億円のマンションを建築すると…
預金2億円は、相続税の評価として2億円として評価されます。これに対し、
例えば、「建築価格2億円のマンションを建設した場合」、
新築時の固定資産税評価額が1億2千万円(2億×0.6=1億2千万円)と評価され、
更に、借家権割合が30%で賃貸割合が100%である場合、
相続税の財産評価額は、8400万円(1億2千万円×(1-0.3)=8400万円)となります。
要するに、預金なら2億円のところ、マンションを建築すると8400万円と評価されます。
④ 2億円の借り入れでマンションを建築しても
2億円の借り入れでマンションを建築した場合であっても、マンションを建築すると8400万円と評価され、借り入れの2億円については、相続財産全体の金額を評価する際、債務として控除されます。
1. 前提条件
⑴ 相続人は2人(子2人・配偶者は無)とします。
⑵ 被相続人の全財産が時価2億5,000万円の土地のみであるとします。
⑶ 相続税計算における土地の財産評価額(相続税路線価評価額)は、
2億円(時価(公示価格)の80%)であるとします。
⑷ 土地評価の前提条件
① 地区区分→普通住宅地区(通常の住宅地にある土地)
② 地積(土地の面積)400㎡
③ 正面路線価500,000円/㎡ [借地権割合60% 借家権割合30%]
④ 間口20m 奥行20m
(整形地(正方形:地形(じがた)による価格補正率での単価調整は必要無し)
⑤ 平成30年分の「土地及び土地の上に存する権利の評価についての調整率表」を使用
(平成30年分より調整率が変わっています)
2. 遺産が時価2億5,000万円の更地のみ借金なしで相続対策なしの場合
〔土地評価額〕
① 時価2億5,000万円の土地の、相続税計算における土地の財産評価額(相続税路線価評価額)
は、2億円(公示価格の80%)であるとします。
② そうすると、相続財産の財産評価額合計は、2億円となります。
〔相続税額〕
課税価格の合計額=2億円-債務控除0円=2億円
基礎控除額=3,000万+(600万×法定相続人2人)=4,200万円
課税遺産総額=2億円-4,200万=158,000,000円(千円未満切捨)
相続税の総額(法定相続分1/2ずつに分けて税額計算します)
① 158,000,000×1/2=79,000,000円(千円未満切捨)
② 79,000,000×30%-700万=16,700,000円
③ ②×2人=相続税総額33,400,000円(百円未満切捨)
3. 賃貸マンションを建設した場合
想定するマンション
① 前記時価2億5,000万円(相続税評価額2億円)の更地の上に
② 建築価格2億円の賃貸マンションを、
③ 建築資金2億円全額を銀行から借入をして
建築するものと仮定します。
土地の評価額シミュレーション
① 土地の相続財産評価額(路線価方式)は、2億円
(路線価)500,000円×(奥行き価格補正率)1,00×(面積)400㎡=(評価額)200,000,000円
② 貸家建付地評価額は、1億6,400万円
(自用地評価額)2億円×(1-借地権0,6×借家権0,3)=(貸家建付地評価額)1億6,400万円
③ 路線価+貸家建付地で、マンション敷地(土地)の相続税評価額は、
更地としての時価(2億5,000万円)の65,6%である1億6,400万円まで圧縮されます。
建物の評価額シミュレーション
建物の建築価格2億円
① 建物の財産評価額(固定資産税評価額)は、建築価格の概算60%
(建築価額)2億円×60%(概算の固定資産税評価)
② 賃貸マンションとしての貸家評価額
建物の固定資産評価額×(1-借家権30%)
③ 建築費2億円の賃貸マンションの相続税評価額は8,400万円であり建築価額の42%まで圧縮されます。
(建築価額)2億円×60%(概算の固定資産税評価)×(1-借家権30%)=(貸家評価額)=8,400万円
賃貸マンション建築による節税シミュレーション
〔課税遺産総額〕
① 土地(評価額)1億6,400万円+建物(評価額)8,400万円=財産評価額合計2億4,800万円が
相続財産となります。
② 2億円の債務(建築資金の借入金)が控除され課税遺産総額が算定されます。
(課税価格の合計額=2億4,800円-債務控除2億円=4,800万円)
③ 基礎控除=3,000万+(600万×法定相続人2人)=4,200万円
④ 課税遺産総額=4,800万円-4,200万=600万円(千円未満切捨)
〔相続税の総額〕
相続税の総額は法定相続分1/2ずつに分けて税額計算します。
① 6,000,000×1/2=3,000,000円(千円未満切捨)
② 3,000,000×10%=300,000円
③ 相続税の総額=②×2人=相続税総額600,000円(百円未満切捨)
(更地の場合の相続税総額3,340万円が60万円になります)
※ 小規模宅地の特例〔貸付事業用宅地〕が適用できる場合、更に相続税総額が減少します。
※ 賃貸マンションを建築すれば、前記のとおり相続税額が60万円ないし0円であるところ、
遺産が2億5,000万円の預金のみで、相続対策しない場合、
相続税額は、約5,000万円となります。
遺留分とは、たとえ全財産を赤の他人にあげるという遺言書があった場合でも、法定相続人が、「家族なのだから少しは私に残して」といえる権利です。
改正前は、遺留分減殺請求権の行使により、遺産を構成する各財産について、目的物の一部(遺留分に相当する共有持分。例えば賃貸用マンションの○○分の1)の権利が、遺留分権利者に復帰して共有状態となると解されておりましたが、
改正法は、遺留分侵害額請求権を行使すると、遺留分に相当する金銭債権が発生することとしました。
このことは、相続対策&資産活用において、大きな影響を与えます。
例えば、妻に先立たれ推定相続人として長男と長女の二人いる父親が、自己の遺産(賃貸用マンションや不動産保有会社の株式)の全部を自分の老後の世話に尽力してくれた長女に相続させる遺言をし、遺言では全く音信不通となっていた長男に何らの遺産を取得させなかったところ、
相続後に、長男が長女に対し、遺留分減殺請求権(改正後は遺留分侵害額請求権)を行使した場合、
改正前は、
遺産の全てを相続した相続人(長女)は、
遺留分を侵害された他の相続人(長男)に対し、
その時の財産状態に応じ、
① 遺留分に相当する現物(不動産や株式)を分割取得させる方法と
② 遺留分に相当する金銭を交付する方法(価格賠償の申し出)、
を選択することができました。
ところが、今般の民法改正(1046条)では、「遺留分権利者は、(遺留分を侵害した)受遺者(相続人を含む)に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。」と規定したため、
① 遺留分に相当する現物を返還する方法は廃止され、
② 遺留分に相当する金銭を交付する方法のみ、
が認められることになりました。
③ その上で、上記金銭の調達のため、裁判所が期限を与える制度が新設されました(1047条5項)。
④ 但し、長女が他に優良な財産を有している場合等、
長女と長男との間の合意により、遺留分に相当する金銭の弁済に代えて、他の財産を譲渡する「代物弁済契約」を締結することは妨げられません(482条)。
そこで、〔上記設例では〕、
長女は、長男に対し、(別途の合意がない限り)原則として、遺言により取得した全財産(賃貸用マンションや不動産保有会社の株式)の4分の1に相当する金銭を調達して、長男に支払う必要が生じ、裁判所は、長女に対し、資金調達のための期限を与えることができます。
(1)遺留分の侵害があった場合
民法改正により、代物弁済の契約が成立しない限り、会社経営者の後継者は、遺留分権利者に対し、
遺留分に相当する財産(不動産や株価)を評価(税法上の評価ではなく民事裁判上の評価)するという困難な作業をした上で、遺留分に相当する資金を調達して支払うことが必要になります。
そこで、民法改正後は、例えば、
① 遺留分を侵害しないように優良物件を複数確保して各々相続させる、
金銭評価ないし換金が困難な自社株の遺留分対策をする、
親の土地に子が無償で借り受け賃貸マンションを建築した場合の底地(底地なのに高く評価されます)について充分遺留分対策をする、
② 優良物件の賃貸により遺留分に相当する金銭をストックする、
等の対策がより重要となります。
(2)早めの相続対策が遺留分リスクを減少させます
民法改正により、遺留分算定の基礎となる「相続人に対する」生前贈与の範囲が、原則として、「贈与時から相続開始時までの期間が10年を超えないもの」に限定された結果、早めの相続対策が遺留分リスクを減少させることになります。
この他にも、不動産所有者、会社経営者の相続・事業承継における遺留分対策については、今般の遺留分に関する改正により、慎重に検討するべき問題が幾つか生じていますので、遺言を作成する際、専門家に相談することをお勧めします。
⑴ にわか節税、節税だけが目的の節税手段はリスク大です。また、
制度の潜脱ではと思えるような節税の手段は、相続前に税法が改正されたり、相続後に否認されるリスクがあります。
⑵ 税法は真摯な資産の有効活用に節税の手をさしのべるものです。
賃貸マンションに関する税法の規定は、真に価値ある賃貸マンションを建設してくれたマンションオーナーの方に、相続税軽減の手をさしのべるものです。
この視点が、マンション建設による節税を考える際に、大切なことの一つであると考えます。